入試世界史研究会

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世界史 共通テスト 問題25番についての見解

共通テストの問題番号25番の問題について、様々な議論が交わされていますので、拙会としても見解を示したいと思います。以下の問題です。まずは解いてみてください。

 

 

大学入試センターの公表した解答は①です。しかし巷では⑥も正解なのではないかという反論が沸き起こっているわけです。

①と⑥の違い、それはずばり、戦時中の日本をファシズム国家とみなす場合の根拠についてです。

①を選ぶ場合、戦時中の日本をファシズム国家とみなす場合の根拠が、「(当時の日本政府が)ソ連を脅威とみなし、共産主義運動に対抗する陣営に加わった」ことになります。

一方で⑥を選ぶ場合、戦時中の日本をファシズム国家とみなす場合の根拠が、「(当時の日本政府が)国民社会主義を標榜し、経済活動を統制した」ことになります。

結論から申し上げますと、拙会は大学入試センターの作問と解答(①)に異論なしという立場を取ります。その理由は以下の通りです。

 

1 ①の選択肢は少なくとも間違っておらず反論しがたい

2 ⑥の選択肢については議論の余地がある

3 問題文は、「(4つの選択肢の中で)最も適当な」ものを選ぶことを要求しているのであり、「絶対的な理由を答えなさい」と言っているわけではない

からです。3については上の写真を見て頂ければご理解いただけると思うので、説明は省きますが、1と2については補足で説明しておきましょう。

 

まず1についてです。ファシズムの定義を一義的に定めるのは確かに難しいのですが、その特徴の1つとして外せないのが、「反共産主義」の性格です。ファシズム体制の国家は「階級対立を克服し、国民の再生をはかるためにナショナリズムを武器とした」と東京書籍の教科書に書かれています。日独防共協定(1936)・日独伊三国防共協定(1937)という歴史的な事実も日本が「反共」の立場をとっていたことを示していると言えるでしょう。このように当時の日本政府は「ソ連を脅威とみなし、共産主義運動に対抗する陣営に加わった」と言えるのです。

 

そして2についてですが、これは標榜という言葉の意味を正しくとらえる必要があります。標榜とは主義・主張をはっきりと掲げ示すことであると複数の辞書に書かれています。では当時の日本政府は国民社会主義をはっきりと掲げ示してたのでしょうか?国民社会主義という言葉は見慣れないかもしれませんが、簡単に言えば「国家が主体となって社会主義政策を推進しようとする思想や運動」のことです。たしかに国家総動員法が1936年に出されて以降、日本政府の政策は社会主義的だったかもしれません。それは認めざるをえません。しかし、それは歴史学において後世から見ればそのように見えるだけであって、当時の日本政府が「国民社会主義」を「はっきり」と示していたわけではないのです。当時の日本政府が自分たちのことを「国民社会主義です」と名乗った事実がないので、「標榜した」とは言えないのではないかということです。

 

以上の点から、拙会はこの問題の正解が①であり、⑥ではないと考えています。