皆さん、こんにちは!
今回は2024年の一橋世界史の講評をやっていきましょう。著作権の関係から問題文全体の掲載はやめておきます。
<目次>
第1問
中世ヨーロッパを出題する一橋世界史の伝統に則っていました。史料も複数出てきて、ビュッヒャーという知らない人物が出てきて、普通の受験生なら焦るかもしませんが、一橋志望者はこれくらいのことで動じてはいけません。こういう時こそ、いつも通りの主題と副題の分析から始めていきましょう。
また今回は一橋大学のレジェンド教授であり、第5代一橋大学学長でもある増田四郎の文章が題材となっていました。これも一橋のよくやる手法ですね。
それではパッと簡潔に分析しておきましょう。
<主題>
文章中の下線部について、アルプス以北の地域において中世都市が果たした社会経済史的意義を考察しなさい。
<副題>
・ビュッヒァーの見解の批判的検証を通じて都市経済の「封鎖的な面」と「開放的な面」を明らかにする
・12〜14世紀の神聖ローマ帝国領域内の複数の都市の事例を挙げる
かなり要求が入り組んでいて、史料の読み込みと知識を結びつける一橋世界史らしい出題だったと言えるでしょう。出題分野も中世ヨーロッパの都市であり、最近だと2008年や2016年の問題を解いていれば、ある程度は既視感を持って解答できたのではないかと思います。
まずは増田四郎の資料を分かりやすくまとめてみましょう。
中世北欧の都市は、独特の経済構造を持っていました。それは、都市が一種の大きな家計単位として認識され、市民の生活全体が統一された形で捉えられていたことに起因します。この特徴は、市民の経済生活が職業分化され、家族の自給自足の理念や地域の伝統的な制約から解放され、封建的な支配からも解放された結果です。
都市の中心には、市場が設けられており、これが市民全体の経済活動の中心でした。市場の繁栄は、市民全体の福祉に直接影響し、市民は文字通り一つの経済的な共同体である「Stadtvolk」として捉えられました。このような経済的な基盤がある都市では、経済を規制する意欲が生まれます。これにより、都市や市民が新しい経済政策の担い手となり、封建的な支配とは異なる高次の政策意欲が生まれることになります。
ビュッヒァーの経済発展段階説によれば、都市の経済政策は封鎖的な側面と開放的な側面を持つとされます。これは、中世都市が経済的役割の重要性を認識しながらも、市民の経済心理や地域の伝統的な制約を考慮する必要があるからです。結局のところ、都市経済は封鎖的な側面と開放的な側面を統合した複雑な構造を持っていました。
ビュッヒャーの文章も問題文に添えてあります。増田の文章と合わせると以下のように整理できるでしょう。
このような状況から、中世都市の経済政策は封鎖的な側面を持っていました。
封鎖的な側面:
1. 地域内での経済活動が独立的に行われていたため、外部からの競争が制限されていました。
2. 各都市は独自の経済単位を形成し、外部との経済的つながりを制御していました。
3. 地域内での貿易や商業活動は、市民組合や地域の規範によって制約され、外部からの影響を受けにくい状況でした。
開放的な側面:
1. 都市は外部との貿易や交流を通じて経済的繁栄を図りました。
2. 外国からの商品や文化が導入され、市民の生活や経済に影響を与えました。
3. 地域内での経済活動が独立的に行われていた一方で、都市は外部とのつながりを保ち、経済的な成長を促進しました。
本問は、以上の内容がすでに資料として与えられているので、これに基づいて、アルプス以北の中世都市の実例をいくつか挙げながら、解答できればよかったのです。
具体的な解説や添削は、一橋志望者のコースや入試世界史演説ゼミナールでやりたいと思います。来春、一橋大学の門をくぐりたい方はぜひ本会のサービスをご検討ください!!
第2問
本会が直前期に実施した「トレンド徹底予想会」で予想していたテーマがそのまま出題されました! 数年前からどこかのタイミングで出るはずだと、一橋受験生には常に警戒するように伝えてきましたが、それが実際に出題される形になりました。これで一橋が出したので、今度は東大が出す可能性が高まりそうですね。一橋と傾向の似やすいとされる外大は既に2015年に奴隷問題を出題していますが、こちらも10年がたつので焼き直しが出る可能性はあるでしょう。
それでは、今回の問題について、簡潔にoverviewしていきます。
<主題>
1.19世紀の奴隷貿易・奴隷制廃止の一連のプロセスを概説する。
2.奴隷解放の問題点を中心に。
<主題2、3についての副題>
・当時の国際関係や政治経済情勢に着目しながら。
・奴隷貿易や奴隷制の廃止に必ずしも「偉業」とは評価できない側面があり、それが現在の黒人たちの不遇な境遇と結びついているとすれば、それはどのような点だろうか。
・奴隷を解放した側からではなく、解放された側、すなわち、元奴隷や黒人社会、アフリカ各国の側からみた場合、奴隷解放とその後の解放された黒人に対する政策は、どのように評価することができるか。
・指定語句:13植民地の喪失、西半球の最貧国、シェアクロッパー制、アフリカ分割
主題1は副題もなく、リード文の文脈からも主題1は軽く済ませることが求められている。よって自分の中で字数を決めるなら、目安は主題1に150字以内、主題2に250字以内となるだろう。
解答作成要求文(この言葉を知らない人は本会出版の論述参考書を活用してください)がこれだけ長いと、なんとなくダラダラと文章を書く人が続出します。それでは大学の思うツボです。主題を分析して、メリハリのある文章を書くようにしてください。
また、巷に出ている解答例はどれも主題1に対する答えが長すぎて、逆にどの点が主題2への解答なのか不明瞭です。主題2は250字も書けるので、問題点を指摘した上で、その根拠となる具体的な事例を「元奴隷」「黒人社会」「アフリカ各国」の中から引っ張ってきます。すると指定語句のうまい使い方も見えてくるはずです。
以上のことを踏まえて、添削を希望する受験生は本会にご連絡ください。
nyushisekaishi.hatenablog.com
第3問
これは肩すかしだったかもしれません。本会も一橋の第3問が唐の滅亡をテーマに持ってくることは想定していませんでした。素直に反省したいと思います。
資料やリード文のない、主題と副題のみで構成された問題文も、筑波大学のようで驚きました。これも一橋では近年見られていなかった手法なので、来年以降続くかは蓋を開けてみないと分からないところです。
<主題>
10世紀から12世紀頃の東アジア世界の政治的・社会的変動を述べる。
<副題>
「唐王朝の滅亡に伴って発生した」変動
さて「政治的・社会的」と聞かれたら、どのような順序で、どのような内容を答えるべきだったか覚えていますか?
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2「入試世界史演説ゼミナール」